2008年9月5日金曜日

通訳環境

この前、久しぶりにある会社のイベントの仕事を受けた。
前回のイベントのときは、散々な出来で、我ながら凹んだのだけれど、初めてで右も左も分からずのぶっつけ本番だったんだから、仕方ない・・・と自分を慰めておりました。

今度は2度目だし、事前に資料も頼んだし、簡易通訳機器も準備してもらった。スピーカーにもマイクを付けてもらい、その声が別の受信機を通して私の耳に直接に届くようにした。

結果は、自分でも驚くほど違った。スピーカーの声が良く聞こえるというのは、こんなに楽なことなのだと思い知らされた。

少し前に日本の番組で、人間の耳には、実は100%聞こえているわけではない。聞こえない部分は脳が自然に補っていて、あたかも聞こえているように感じるのだと言っていた。

テレビでは、音を消した部分が複数ある文章を聞いて、どのように聞こえているかを体験し、あとでそれをスローで流して、消してあった部分があったことを示す・・・こんなことをやっていたと思う。

例えば、「ミルキーはマ△の味」と聞くと、脳は自然に「マ」を補って、「ママの味」と聞いたように思うのだ。(こんな例じゃなかったけど、要するにそういう原理。)

知っている言葉なら自然に補えるけれど、初めて耳にする言葉の場合はこの限りじゃない。通訳として会議に参加すると、初めて耳にする言葉がたくさんある。参加者の名前がそう。これが鈴木さんだの佐藤さんだの、スミスさんだのだったら、たとえ1音聞き取れなくても、想像できる。ところが、今や知られる苗字でも、10年前に、「ヒガシヤクバル」や「ペイリン」や「オバマ」と言われて、参加者の中にそう言う名前の人がいることを予め知らなければ、聞き取れなかったときに、再生するのは不可能。

他にも固有名詞やその会社特有の略語と言うのが一番しんどい。
例えば、「That's フォー エイフォーユー on テントウェルブ」とかいきなり言われて、頭に???が並ぶ。

「今何ていいました?」と聞ける状況なら聞くが、往々にして、通訳の存在なぞ無視されて、延々と会話が進む、という状況があったりする。だから仕方なしに、何とかお客様のために通訳しようと努力するのだが。

「A4U用で10月12日です」かな・・・。
「御社用の48で、1012に記載のものです」・・・なんて可能性もある。

いずれにせよ、いきなりは無理なのよ。英語が分かれば、通訳できるとお思いの方も多いのですが、何の話をしているのか、どういう状況なのか、ある程度説明されていないと全然わからない。

上記の場合も、あとになってA4Uってのが建物の通称だってことが分かった訳だけれど、そんなの咄嗟にはワカランのである。

で、スピーカーの声を直接耳にして、思ったのが、同時通訳ブースでの通訳という環境がなんと恵まれていることか、と言うこと。無論、しょっちゅうブースで通訳されている第一線でご活躍の大先輩の方々の、私なぞは足元にも及ばぬのであるから、環境が整っているから出来るのだと言っている訳では全然ありません。

めったにブースでの通訳の仕事なんて回ってこないシモジモ通訳の私ですが、ブースで通訳するときは、3人交代が普通なので、稼動時間は3分の1。しかもたいていの場合は事前にたっぷり資料がやってくる。(それはそれで、予習が大変ではある。またアウトプットもレベルの高いものが求められていることも事実。)環境的には恵まれている。

ところがシモジモ通訳が担当するのは、往々にして事前資料も十分になく、いきなり社内用語が飛び交う中、英語人と日本語人が互いにコミュニケーションを計ろうという会議ではなく、どちらかの言語人が主流で話しをする中、小さくなっている我がクライアントさんが、話の中身だけを傍聴しようと、遠慮がちに会議に参加して、私の通訳に耳を傾けている・・・こんな会議だったりするのです。

固有名詞が飛び交い、それが人物なんだか社名なんだか商品名なんだかもわからず、何とかジョウシキと自らのチシキに照らし合わせて思いを巡らせていたら、その人の発言が終わらぬうちに、別の人物が彼の言葉尻を捉えて、かぶせるように話し出す。かと思ったら、ウェベックスなどの電話会議システムを通して会議に参加している人のくぐもった声が、突然スピーカーを通して聞こえてくる。

こんな三つ巴の中、別人の声に主語がかき消され、・・・・is not so bad (○○はそれほど悪くない)とか言われて、次の会話がずっと代名詞で続いたりすると、ついぞ何の話かも判明せず。心の中で、はたまた声に出して、「お客様、ごめんなさい、でも分かりません」と叫ぶしかないのだ。(こういうときはしばし沈黙して、話を聞いて、「××って言うような話をしているみたいです」と、お茶を濁す。)

しかも通訳機器が用意されていないと、お客様に聞こえるようにするためには、ある程度の声で話さなくちゃいけないが、そうすると自分の声にかき消されて余計に聞こえないと言うジレンマに陥る。

言わんんとしているのは、こんな環境では、通訳の能力以前に、「通訳不可能」と言う事象が起きていると言うこと。雇われている以上「できません」と放り出し得ぬ部分もあり、お客様のために何とかそこで起きていることを伝えようとはするけれど、伝えられなくて、悶々とするのです。

で、冒頭の久しぶりの会議の話に戻るのですが、ここではこんな説明が英語で聞こえて来ます。

「エリザベスに似てますが、これはマドリッドでオラクルです。スクールバスとプラスターがあります。」

実はこの会社はアパレルで、スタイル名は基本的に女の子の名前、素材名や色の名前はフンイキにあわせて命名されているのでした。初めての時はそんなことも知らないものだから、「これはエリザベス」なんて言われて、モデルの名前だと思っていたし、「マドリッドは神のお告げです・・・スクールバスと土壁がある・・・」ってなんのこっちゃ?となるわけです。

そこで、「オラクル」って何ですか?と尋ねたとしましょう。
最悪の返事は、
「あ、通訳さん、オラクルはオラクルで分かりますから、そのままでいいです」

先ほどの会社の場合は、ちゃんと「生地の名前です」って教えてくれたのだけれど、実は上のような回答をされることが間々あるのです。知りたいのは、それが何なのかであって、どう訳すかではないのです。それが何かで、表現が変わるし、日本語だったら数え方だって変わってくる。

しかし、このアパレル会社も毎年数多くのスタイルを出しているので、だんだんと使える名前が切れて来ているらしい。ハリケーンの名前も、最近は普通の名前が使い尽くされて来たからか、はたまた「マイノリティーの名前が使われないのは不公平だ」と言う声に応えてか、グスタフだの、バーサだの、クリストバルだの、あまり一般的でない名前が登場し始めた。

それで今回のイベントでも、聞き慣れない名前のオンパレード。アブリア、カメッロ、フレウィン、ヴァウン・・・。本当にそんな名前あるのかよ。もう忘れちゃったけど、日本の名前もあった。それも、いったいつの時代の名前って感じの「マツ」とか、「スエ」みたいなのだったりした。

で、もしもスピーカーの声がちゃんと聞こえてこなかったら、
「△レウィンに似てますが、これは△ドリッドでオラ△ルです。スクールバスとプラス△ーがあります」
と言われて、訳せます?

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