2007年11月15日木曜日

インセンティブ - アメリカの大学事情9

先日、日本のテレビ番組で、アメリカの医療保険事情を特集していた。

アメリカの医療保険は、個人で買うもの。但し、低所得者にはメディケイド、高齢者にはメディケアという医療保障があるから、一番困っているのが中流層である。保険料があまりに高額なため医療保険に加入していない人がとても多い。

そういう意味では、国民全員に医療が保障されている日本はすばらしい。「郵政民営化」に続いて、「社会保険民営化」とか「国民健康保険民営化」とかが、起きないことを切実に願うわ。

医療保険と同じように、今の大学の学費に一番苦しんでいるのは中流家庭。 所得が少なければ、ファイナンシャルエイドを得ることができる。でも、ある程度の所得があれば、「支払可能」とみなされてしまう。実際にはそうでないから、プライベートの学費ローンを組んだりする。利率も高い。

ファイナンシャルエイドとして、無償のグラントと、通常はパッケージでオファーされる、連邦政府の学生に対するローンの利率は、年間4000ドルまで、合計20000ドルで、年率5%。在学中の利息は政府が肩代わりしてくれる。これ以上に必要なら6.8%で、倍額まで借りることが出来る。

この利率も決して低くはないと思うけれど、これに対して、援助が必要でないとみなされた場合に、両親が連邦政府から借りる場合の利率は8.5%。連邦政府にしてこの利率。学生相手のプライベートローンも、最低でもこのくらいの利率。また「悪質」なローンもあると聞く。学生の中には、卒業後からの月々の返済金が300ドル以上になり、支払不能に陥っている人も多いらしい。驚いたことに、学費ローンだけは自己破産しても免除されないらしい。

学費で頭を悩ませている中流層が増えている中で、最近ではいろいろなところから、雇用確保を目指して、学費を対象とした「インセンティブ」が提示されている。

まずは、社員を対象とした奨学金や授業料払戻しシステム。その会社で働きながら大学に通うような場合だ。多くの会社が社員のスキルやキャリア向上のために、奨学金を出しているが、これらは既に社員となってその会社で仕事をしている「大人」を対象としており、学士より、修士以上の学位が対象の場合が多い。これは、キニコのように、これから大学生になろうという者には使えない。

そんな中で、ひとつ大胆な取り組みをしている会社がある。アルバイト社員に対する学費支援システム。総額で、最大年間6000ドル。UPSという会社だ。日本で言えば差し詰めクロネコヤマト。フォーーチュン500にも含まれる大企業である。UPSのウェブサイトで見つけた支援内容は下記の通り:

3000ドル/年 パートタイム従業員(週20時間)
4000ドル/年 (パートタイム・スーパーバイザーの場合)
2000ドル/年 学生ローン
医療・生命保険
401Kプラン
土日祝休み、有給休暇あり
割引株式購入プラン

週20時間というのは、決して簡単ではないが、それでもこれはかなり大胆なオファーと言える。
(日本では、新聞配達をして学費を稼ぐ制度があったような気がする。どのくらいもらえるのかな。)

以前に噂で、AT&Tの社員には、社員の子供のための学費援助があると聞いたことがある。インターネットを駆使して調べたのだか、事の真偽はわからなかった。

企業が社員の子供の大学費用に対して補助を提供している例として見つけたのは、保険会社のGEICOとAflacだった。いずれも年間1000ドルとか2000ドル程度。

従業員の子供に対する補助・援助として手厚いのは、公的機関や大学である。殆どの大学では、職員やスタッフの子供に対しては、大幅な割引から無料まで、寛大なサポートがある。

そう言えば、高校の例だけれど、キニコの去年のルームメイトのベッカは、デイスチューデントだった。つまり、寮に机はあるものの、ベッドはない。近所に自宅があるので、夜は自宅に帰るからだ。ベッカのお父さんは、キニコの学校のグラウンドキーパー。校庭の整備のほか、夏は校内の芝生の手入れ、秋は落ち葉掃除、冬は雪かきの仕事がある。ゴルフ場もある広大な土地だから、複数のスタッフがおり、彼はそのチームのヘッド。ベッカには2人の兄がいて、2人ともキニコの学校を卒業している。普通の学生と同様に、合格しなければ入れないが、合格した場合の学費はゼロ。今年の授業料は30000ドルだから、社員のベネフィットとしては、手厚い。ベッカのお父さんがこの仕事を選んだ理由も、このベネフィットが目的だったと言う。

さて、様々な雇用促進のインセンティブがある中で、最もユニークなのは、「カラマズープロミス」と呼ばれるもの。ミシガン州にカラマンズーという名の町がある。ケロッグの本社があるバトルクリークのお隣。優秀な人材が、田舎から流出してしまうことを防ぎ、同時に若い人材を外から取り入れるための試みである。

1年ほど前に始まったこの新しい施策の内容は、カラマズー市内の公立学校と高校に規定の期間在籍し卒業した者には、ミシガン州内の公立大学の授業料が最大で無料になるというもの。補助の割合は在籍年数で決まる。

幼稚園(1年生になる前の1年)から高校の最終年である12年生まで13年間通えば100%で、無料。
1年生―3年生~12年生までなら、95%の補助。
4年生~12年生 90%
5年生~12年生 85%
6年生~12年生 80%
7年生~12年生 75%
8年生~12年生 70%
9年生(高校)~12年生 65% 

10年生以降の在籍では全く補助は出ない。カラマズーの公立学校に通うには、カラマズーの居住者でなければならない。つまりこれは子供の小さい若い家族をこの土地に誘致するための対策である。実際、これがどのような成果をもたらすのかわからないため、この試みは10年後には見直しがかけられることになっている。

あー、こういうことを、もっと早く知っていたら、カラマズーに移住するか、どこかの大学の掃除夫か何かの口を探すんだったのに・・・。

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